LOGIN今日はひよりと一緒に考えた企画の配信日。
「ゆきちゃん、本当に大丈夫?」
ひよりが心配そうに聞いてくる。当たり所が悪ければ大けがをする可能性もあるだけに、見てる側としては心配してしまうのはよく分かる。わたしも姉妹の誰かがこんなことやるって言ったら止めるし。
だけどわたしの態度は余裕そのもの。「ダイジョブダイジョブ! 何度か練習してるし、万が一にも失敗はないよ」
一応体に当たっても怪我をしないように生地の分厚い道着を着てるけど、顔は特段何もせず、ゴーグルもはめてはいない。
そんなものをつけたら視界が遮られて逆に危ないからね。リラックスした状態で配信時間まで待機。
今日のカメラマンは急遽代打としてより姉が担当。あか姉は射撃主としてスタンバイしているからだ。 試射の時にみんなやりたいというから順番に撃たせてみたんだけど、あか姉以外はみんな背筋が凍り付くような結果だった。誰一人的に当てることが出来ないのは良いけれど、デッドボールどころではない
今日はわたしと依子さんの誕生日パーティーです。 昼間は前の職場で頼まれていたゆきちゃんの件のお仕事があって出かけていたのですが、今頃ゆきちゃんはわたし達のために腕を振るって料理を作ってくれていることでしょう。 その愛情がいっぱい込められた数々の絶品の品のことを考えると今からもう楽しみで仕方ありません。 味が美味しいのはもちろんですが、わたし達が美味しいと言った時のゆきちゃんの嬉しそうな顔が可愛くて、もうたまらないんです。 でもそれ以上に嬉しいのは、心からわたし達の誕生日を祝ってくれているのが伝わってくることでしょうか。 本当に楽しそうに料理を作る姿。 普段のお仕事が忙しいせいで疲れているはずなのに、今日も朝早くから起きて仕込みをしていました。 そして手の込んだ飾りつけも本当の心が籠っていて、とても丁寧に飾ってくれているんです。 元々手先の器用な人ですから、一生懸命作ってくれたであろう飾りは本当に芸術物です。 わたしにとってはラオコーンの群像にも引けをとりませんとも。 ようやく用事も終わり、愛するゆきちゃんの待つ自宅へと戻ってきました。わたし自身が待ちかねていましたとも。「ただいまです」 玄関で靴を確認すると、依子さんが先に帰っているようです。ゆきちゃんと二人きりになれるチャンスかと思っていたので少しだけ残念です。 だけど、ここでわたしの野次馬根性が頭をもたげてきてしまいました。依子さんはゆきちゃんと二人きりになったらどんなことをしているのでしょう。 そう思ってそっとリビングを覗いてみたら……あらあら。 さすが大胆な依子さん。ゆきちゃんに後ろから抱き着き、そのままキスをしています。 ずいぶん濃厚なキスですね。なんだか羨ましくなってきました。 じっと見ていると依子さんがわたしに気付きましたが、ゆきちゃんのそばからどく気配はありません。 それどころか笑顔で挨拶をしてきました。「おかえり」 なんとも不敵な笑顔です。「ただいまです。そんなことより依子さん
芸能界の大御所からある意味のお墨付きをもらったことによって、わたしの元にはさらにたくさんのオファーが舞い込んでくるようになった。それを選別する五代さんも大忙しだろう。 ひよりも手伝っているけれど、それでもスケジュールを詰めるのに相当苦労しているようだ。 ほとんどが音楽番組なんだけど、中にはドラマに出てくれないかという話もあって。思わず笑ってしまった。 「ピーノちゃん」は確かに歌とダンスは上手かったけど、台本読みは死ぬほど苦手だったのを知らないのかな。 言っとくけど大根役者なんてものじゃねーぞ。 棒読みでもいいなら出てもいいけど。 でもテレビに出るようになって、いいこともあった。 旅番組のオファーが来て、仕事で堂々と旅行に行けたりすることもあるからだ。 うちの姉妹たちはスタッフ扱いなので当然同行。 撮影をしながらだけど、美味しいものを食べて温泉にも浸かって、観光地を巡れるのはテレビならではの役得だ。 タオルを巻いているとはいえ、温泉に浸かる姿を撮影されるのは恥ずかしいし、姉妹達も複雑そうな表情をしていたけど。 だけどわたしが温泉に浸かる回は視聴者から人気だということで、たびたびお声がかかる。男性視聴者に人気があるというのが少し引っかかるけど。性癖は正常に保てよ日本男児。 だけどやっぱり出演して一番楽しいのは音楽番組だ。昔に比べてずいぶん減ったとはいえ、やはり音楽というのはどの世代にも人気があって、たくさんのミュージシャンがいる。そういったプロのミュージシャンと交流できて、生のパフォーマンスを間近で見れるというのはとても勉強になる。 プロにはアマチュアとは一味違う技術やこだわりなんかもあって、だからといって自分だけのものだと秘密にすることなくいろんなテクニックを惜しげもなく披露してくれる。 仲良くなったバンドの打ち上げに誘われることもけっこう増えた。「ほらーゆきちゃんもどんどん飲みなよー」 そう言ってすっごいお酒を勧められるのもよくあることだ。「家では姉妹たちが待っているので、あまり酔っぱらって帰ると怒られるんですよ
パーソナリティの紹介を受けてスタジオ入りするわたし。 目の前に鎮座するのは芸能界の大御所。拍手をしながらわたしを出迎えているものの、その眼差しはどこか値踏みをしているようにも見えるのは穿ち過ぎだろうか。 さすがはというか、長年この世界に君臨してきただけあって、漂うオーラは普通の人のそれではない。 人好きのしそうな柔和な笑顔で接してくれているものの、一筋縄ではいかない人間だというのはよく分かる。 この人の機嫌を損ねたら芸能界で干されちゃうのかな、なんて呑気な事を考える余裕はあるけれど。「どうも初めまして。歌手、そしてダンサーとして活動しているゆきと申します。まだ若輩者ですが、今後ともご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いします」 まずは型通りの丁寧な挨拶。あまりいい印象を持てないとしても相手は年長者。最低限の礼儀は尽くしておかないと、社会人としても失格の烙印を押されてしまう。負けず嫌いの虫にはまだ大人しくしていてもらおう。「あら、歌とダンスをメインに活動してらっしゃるんですね」 この時点でわたしに興味がないと言っているようなものだ。普通ゲストとして呼ばれている人間のことくらい調べるものじゃないんだろうか。「それにしてもお綺麗な方ですねぇ。わたしの若い頃にも負けないくらい。透き通った白い肌が羨ましいわ」 人の事を褒めながらも、露骨に自分の過去の事も自慢している。わたしと同じく自己顕示欲の高い人なんだろう。少し好感が持てるな。「お若い頃の写真は見たことがあります。本当にお綺麗で、男であるわたしなんかと比べるのはおこがましいくらいです」 実際に見たことがあるのだが、本当に人形のように綺麗な人だった。過去形だけど。 独特の髪型と丁寧に施された化粧からは上品さが漂っているものの、寄る年波には勝てなかったということなんだろう。 失礼なことを考えているなと思っていると、目を細めて質問をしてきた。ヤベ、何か勘付かれたかな。「ゆきさんはどうして歌をネットなんかで発表しようと思ったんですか?」 少しカチンときた。ネットのことを|な《・》|ん《・》|か《・》と言ってしまう時点でこの人は何か偏見を持っているのだろう。そのネットでたくさんのリスナーさんに支えられているわたしに向かって言う言葉とは思えない。やはりどこかでわたしの事を見下しているような雰囲気を感
アメリカでの成功は確かに成果があった。 本物の銃弾を弾き飛ばした動画も大いに注目されて、世界中のバラエティやニュース番組で特集が組まれているそうだ。 そしてその後見せた歌とパフォーマンスは見るものの心を揺さぶり、「日本から訪れた本物の妖精」というキャッチコピーまでつけられ、英語圏であるイギリスを始めヨーロッパで大々的に取り上げられて認知度が格段に上がった。ヨーロッパ以外でもわたしの歌声は世界中に広まりつつある。 おかげでチャンネル登録者数も四千万人を目前だ。このままいけばギネス記録を塗り替えることも視野に入ってくるだろう。 わたしが三曲目に英語で歌った曲は英語版日本語版共にアメリカやヨーロッパで各国語版ヒットチャートの上位三位以内に入り、他の楽曲も軒並みランクイン。 弾丸インパクトが呼び水となり、わたしの知名度はうなぎ登りと言っていいだろう。 みんなに怒られながらもやった甲斐はあったということだ。 そのこと自体はとても喜ばしいことなんだけれど、副作用が発生してしまった。 日本のテレビ局からの出演オファーが殺到することになってしまったのだ。 今はまだ五代さんのところで止めてくれてはいるけれど、わたしもそろそろ覚悟を決める時かもしれない。 リビングのソファーに座り、連日のように届く五代さんからの連絡メールを見てため息をついてしまう。「今日もオファー来てるの?」 アイスクリームを咥えたひよりが後ろからわたしのスマホを覗き込んで聞いてきた。「うん、いつまでも断り続けるのもねぇ……ってつめた!」 肩口にポタリと落ちた水滴に飛びあがるほど驚いた。 ひよりのアイスが溶けてピンポイントに狙ってきたんだけど、わざとか?「ごめんごめん、ちゃんと処理するから」 ティッシュで拭いてくれるものと思いきや、近付いてきたのは手ではなく顔。「ちゅっ」「ひあ!」 アイスを食べて冷たくなった舌はまた独特な感触で、思わず素っ頓狂な声が出た。「何す
「ゆきちゃん!」 ひよりの悲痛な声が響き渡った。 わたしは腕を伸ばしたまま、微動だにしない。 怪我をしたわけではない。 ただ想像以上に凄まじい衝撃で、少々腕がしびれているだけだ。 その瞬間は誰が見てもまさに衝撃的だった。 9ミリパラペラム弾特有の高い音と共に、「ブォッ!」という空気を切り裂く掌底の音と、「パシ! パシパシィッ!!」という、弾丸がアクリル板に何度も跳弾する甲高い音が重なった。 次元が違う。 エアガンの時とは音も、衝撃も、迫力がまるで違っていた。 スタジオでは当然、その瞬間のスロー映像が大型モニターに流れている。 そこに映っているのは、飛んでくる弾丸よりも速いようにすら見える、ゆきの繰り出す掌底。手のひらに張り付けられた鉄板で寸分の狂いもなく弾丸を捉え、その軌道を強引に捻じ曲げている。 そして大きく軌道を変えた弾丸は設置されたアクリル板へ次々に跳弾しながら最終地点に設置された壁面へ深くめり込む。 会場は完全に息を飲んでいた。「Oh my God!」 司会のローリー氏が思わずつぶやき、慌てて自分の口を押さえ込む。 その顔からは先ほどまでの余裕の笑みは消えていた。「よし」 小さくつぶやき、ようやく痺れの取れてきた腕をそっと下ろす。 やり切ったという達成感が、ゆっくりと全身を駆け巡っていく。 この想いを最初に表すのはやはりこの人達しかいない。 先ほどまでの緩慢な動きと打って変わって、素早く後方へと振り向いたわたしは、そこに並ぶ愛しい面々を見て表情を綻ばせる。 満面の笑顔でブイサイン。 四人の愛する姉妹と五代さんが、目に涙を浮かべて駆け寄ってきた。「さすがゆきさんです!」「すげー! 本当にやりやがった!」「感動しました!」「超人」「ほんとすごかったよ! 声も出なかったもん!」 口々に賞賛の言葉を浴びせ、共に成功を喜び合う。 これでわたしは「ちょ
「ブラボー! 鬼気迫るデモンストレーション、確かに見届けました。リハーサルでは一度も成功しなかったのを、本番ではたった一度で成功させるとはさすがですね。感動しました」 ローリーさんが拍手をしながらコメントを語る。観客たちは総立ちで熱狂しているが、彼は椅子に座ったまま冷静な笑みを浮かべる。 この後に控える挑戦のことを知っているからまだ余裕なのだろう。エアガン程度は「デモンストレーション」なのだから。 それにしてもリハーサルでの失敗をここでも持ち出してくるとは……。「ありがとうございます。まぐれではないことを証明するために、もう一度同じことが出来ますが再挑戦しましょうか?」 失敗を強調するあたり、まぐれだと思われていても心外だ。 今のわたしなら何度挑戦しても結果は同じ。いつでもかかってこい。 だけど彼の反応は違うものだった。「いえいえ。先ほどの気迫と動きを見ればこれくらいは朝飯前なんでしょうね。この次に控える挑戦を見事クリアすることが出来たら、本物だとは思いますが」 なるほど。なんというか、分かりやすい人だ。 次の挑戦が待ち構えている以上、次で失敗すれば今回の事も自動的に「まぐれ」になってしまう。印象操作というやつだ。 要するに次のチャレンジは成功するはずがないと思っているんだろう。 上等だ。あんまりわたしを舐めるなよ。 だけどそんな反骨心はおくびにも出さず、いつもの笑顔。「それもそうですね。では早速次のチャレンジに移りたいと思いますので、準備の方を進めていただけますか?」 その挑戦、受けて立ってやる。 その言葉に笑みを浮かべるローリー氏。ずいぶんと挑戦的な笑顔だ。「分かりました。スタッフさん、打ち合わせ通りお願いします」 司会の進行に従って、現場のスタッフが少し緊張した様子で、慌ただしく動き始める。 その隙に五代さんがそっと近づいてきた。「ちょっとゆきさん。次のチャレンジってわたしは何も聞いてないんですけど。いったい何をするつもりなんです